メモリーズオフの5作目。
大学の映研サークルが舞台の5作目。約一年前に起こった親友・雄介の死が原因で、サークル内では映画撮影に関する話題は自然とタブーになっており、映研の名は形だけで活動は一切していない。目下のところ、仲間内で集まって馬鹿やってるだけのたまり場になっていた。
雄介の命日が近づいてきたある日、雄介が死んだのは自分の責任と言う女・仙道麻尋が部室を訪れる。「雄介くんが生前に遺した台本で映画を作りたい」。この一言から日常の歯車が狂っていく。
掴みは上々
ゲーム開始早々に麻尋が現れるから日常の内輪空気を描く部分が足りない気もするが、プロローグの掴みは前作同様によかった。2~4までの三角関係のごり押しが薄くなっていたのも好印象。麻尋の登場で仲間内に亀裂が入ってから修復する流れは見え見えだけど、映画撮影の夢を頓挫させるくらいの影響力がある親友の死が切っ掛けで、仲間内の空気感や、その妹との関係も、ギリギリのバランスの上で成り立っていた所からの波乱は、皆にとって大切な人の死が関係しているぶん説得力があり使われ方がどうであれ目を引いた。視点変更の演出も良い
麻尋ルートのみだけど、視点をヒロインに代える手法は、本来描かれることのない心情を読み手に委ねず物語を純粋に深くするから個人的に好き。視点変更してのモノローグは、人や物に対する見え方が変わってキャラが立ち、自分の考えと違った場合でも個の存在を実感させてくれる。結果的に景色や登場人物の存在を具体的に捉えることができるようになり物語に入り込みやすくなる。少しだけでもいいから他キャラにも使ってほしかった。EDを見た順番
1.麻尋(まひろ)
設定的には一作目の主人公(智也)みたいなキャラクター。智也の場合は傘を持ってきてもらう際の事故で恋人と死別、麻尋は家に送ってもらった際にイザコザに巻き込まれて恩人と死別しており、自分があんなこと言わなければあの人は死なずに済んだという共通した後悔の念を持つ。
直接ではないにしろ雄介を死なせてしまった罪の意識に苛まれる麻尋は、初めて部室の映研連中を訪ねた際に、話をろくに聞こうともされず殺人者として罵倒され追い返されてしまう。
麻尋との出会いの前に事故の細かな内容は描かれておらず、彼らが感情的になる理由は読み手にはほとんどわからないので、怒るなら怒るできちんと話を聞いたうえで行動する建設的な描写をしないと混乱するばかり。そのうえ、あすかのこともあるはずなのに率先して罵倒・拒絶していた主人公がすぐに反省して和解する点も胡散臭さを強調していた。
雄介の死によって大好きだった映画作りから距離を置いてしまった映研の同志たちに、視点変更で雄介や遺した台本に対する想いの深さや行動原理が痛いほどに描かれる麻尋が接触して、お互いに紆余曲折を経ながら新しい一歩を踏み出すというドラマ的構想はそれだけで面白いのだから、このような不自然な印象付け演出は間違いなく不必要だった。
それに、生前の雄介の意思であった、麻尋を映研の輪の中に入れて映画撮影をさせることで生に希望を見せることは叶ったものの、これはほとんど麻尋一人の行動で実現させたことで、手前勝手に麻尋を罵倒したり離散してしまう映研連中は、雄介の言う“良い奴ら”評や絆に疑問符を付けて感情移入の妨げをしていた。
麻尋個人は、恩人である雄介を心に思うことで、気丈に振る舞い挫けずやり通す気持ちと芯の強さを見せることに繋がって評価はうなぎ登り。だけど、雄介の遺志を成し遂げるのなら全員が麻尋に説得されたことがキッカケで映研に戻るのではなく、個人で考えて行動をして絆とやらを見せるべきだった。全員に視点を変える群集劇のようにして。バラバラになった想いがひとつにまとまる様はクサいけど雰囲気には合うと思うし。
2.美海(みうみ)
いとこの脚本家志望さん。美海の所へ家庭教師に行くことになって映画の話で意気投合した後、偶然見つけた美海が書いたという書きかけのシナリオに主人公が惹かれる。続きが書けないと悩む美海に主人公があの手この手で協力し、完成したそのシナリオで映画を撮ろうと約束。その過程でお互いの心の中に愛が芽生えていく。
しかし、美海には過去に巻き込まれた事故の後遺症で、5月9日になると1年分の記憶が失われるという記憶障害があり、関係が深まるにつれ相手に与える傷が大きくなることを懸念した美海は、5月9日が近づいてきたある日、主人公に一方的な別れを告げる。だが、真実を知ってもなお、主人公は諦めることはしなかった。
どこかで見たことあるシナリオ。最初に思い起こされたのは映画の『50回目のファーストキス』だった。新しい出来事の記憶が出来ず次の日になると忘れてしまうあの映画。
年に一回だから映画のように毎日毎日苦労するわけではないけど、一年が丸ごとリセットされる喪失感の悲劇も相当なもの。その悲壮感のドラマは、本人も、家族も、主人公も、友人も、それぞれの想いをぶちまけてからの通じ合いで同じ方向を向くように描かれていて、そんな病をも受け入れる愛情友情の上に展開されるので流れはとても綺麗。
とはいえ、一年毎に記憶した想い出が丸ごと消えるというのはなんだかな。その症状に信憑性を持たせる描写もないし、すぐ近くに住んでいる親族の事故を主人公が知らないってのも違和感がある。そういうものだと受け入れて余計なことを度外視してしまえば、愛の奇跡で治るなんて超展開も無いから面白かったんだけど。
下手な不協和音が生じることもなくサークルの内輪の雰囲気が出せていて全員がいいやつな穏やかさが最後まで続くのも良い。細かいところを咎めなければ悪くない。
3.みずほ
このルートとバイト中は主人公の性格が違い過ぎて違和感あり。2~4と同じように木偶主人公で話をこじらせて堂々巡りをさせるシリーズの悪い特徴だけが目についた。4.香月(かつき)
なんでもそれなりにこなす姿が描かれているシッカリ者。困ったときには隣にいて手助けをしてくれて、麻尋関連で巻き起こるいざこざで苦悩する中、その存在が次第に大きく感じられるようになる展開。付き合いの長い主人公との関係を周りに指摘されて赤面したり、主人公にからかわれてしどろもどろになったり。イベントは普段のスマートな姿と違うギャップが楽しめるキャラ。
そこまでは王道で読みやすく結構良かったんだけど、裏方作業でも予算管理でもなんでもござれな評価のわりには人間関係に関してだけ思慮に欠けた言動をすることもあるというのは不自然に見えた。
自身の過去の話や麻尋とのやり取りのところだけはデリケートな問題である雄介の死が関係しているだけに細かな配慮が欠けたことが原因で亀裂が入る人間関係の面倒くささを如実に表し説得力もあったけど、修二とあすかの件は匿名メールで呼びつけての鉢合わせで告白をするように他力本願の画策するとかただのアホになっている。
みんなの関係を壊してしまい苦悩する香月の力になれるようにと一途に行動する主人公の姿勢は終始かっこよく描かれていたけど、これでは強引すぎて白々しさが勝つ。
香月の行動に許せん許せんと息巻いていた修司が、内容が描かれていないのにエンディグで和解している姿にも違和感を覚える。何をどう反省しての和解なのかを描かないと納得できないし、成長が見えないから再び同じことの繰り返しになるだろう不安定落ちになる。本人が原因の軋轢だから主人公ではどうしようもないし……。
あすかがどうなったのかもわからなければ、麻尋も途中で逃げてしまうし、全体的な整合性にケチをつけたくなる場面が散見する。BADの「もうお前らに関わるのはごめんだ」と言って行方をくらますオチのほうが自然に見えてしまった。
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