メモリーズオフの4作目。
恋人の「いのり」に何の前触れもなく「元々好きではなかった」と突然に別れを告げられてしまう主人公。それからの一人身の生活に、付き合っていた二年半の出来事を絡ませながら、泣かせて女々しく思い返させたり何が悪かったか反省させる過程で主人公像を作っていく。この辺りは彩花を一途に想う一作目主人公と通ずる所がある。一作目ではその想いの深さが印象に残って行動原理にも理解ができ楽しめたという経緯があるので、どことなく似ているプロローグに原点回帰の雰囲気を感じ期待は膨らんでいったが……。
主人公がギャグ
振られた現実を少しずつでも受け止めながら前を向いて歩いていく主人公は、ギャルゲーとしては当然となる新しい出会いに出会う。しかし、ルートによっては失意の主人公が新しい出会い子ちゃんに心移りをした後の三文芝居でヨリを戻してしまうため、終盤で見え透いた三角関係の波乱が起きてしまう。主人公は選んだ選択肢を汲むことなく何もしないことでヒロインとの関係を泥沼化させるから、主人公を介してゲームに入る読み手は違和感や隔たりを意識することになる。選択肢を選ばせている以上は出来る限り違和感なくそれに沿うように行動させないと納得ができないし、それだけいのりへの想いが強いからとこじつけられても選ばされているだけに主人公と思惑が乖離してしまい楽しめない要因となる。選択肢がなければ何とか割り切れていたとは思うが。
いのりは突き放して縁や雅寄りの選択肢を選び続けているのに、その場面での主人公は毎度のように「俺はいのりを愛しているし、新しい出会い子ちゃんも愛している。いったいどうすればいいんだ……」と間抜けた悩みを独白するだけで何もせず、波乱展開に持っていくための木偶人形に成り下がる。
拒絶されて別れたはずなのになぜかメールのやり取りを再開したり、ホワイトデーでお返しをプレゼントするなど、いのりに対して理由を問い詰めたりしてぶつかることをしないくせに、未練まみれの醜態をさらす場面を見せられるシナリオが延々と続く。手を伸ばせば簡単に届くところにあるのだからぶつかれよと思わずにはいられない。
友達として絆を残すことはできないのか、絆が切れるなんて嫌だ、逃げ道を模索しながら悲劇に浸るだけの主人公に魅力なし。
浅はかな別れの理由
主人公が主人公ならいのりもいのり。「元々好きじゃなかった」という建前を蔑ろにして主人公の絆キープ作戦を中途半端に受け入れる。だけど根本的な解決はしていないから波乱に繋がる自作自演。いのりにそう言わせる原因となった飛田もあっさり引き下がるから、真に迫る様子が露と消えて滑稽なシナリオになっている。雅と縁のルートでは、別れの理由は明かされず主人公も問い詰めないのに、なぜか申し合わせたかのように理解しあう姿が描かれて復縁するから読み手は置いてけぼり。
プロローグを蔑ろにしたうえで強引な三角関係まがいに繋げるから主人公の苦悩は単なる自惚れで興味を失わせるし、手前勝手ないのりに対する印象も非常に悪くなる。それに飛田が現れなかったらどうしていたのか。ずっと黙っているつもりだったのか。こんな理由なら飛田云々は関係なく、愛情が大きくなるにつれて嘘をつき続けることに耐えられなくなったから逃げ出したぐらいの理由のほうが自然だったように思う。
白々しい修羅場は何度も入れてくるのに、雅なら家、縁なら家族、その辺りの物語の柵に使ったネタも蔑ろにして尻切れで終わらせるから、三角関係イベントありきで作られたシナリオという冷めた見方しかできなくなる。隔たりを作る選択肢もそうだけど展開を納得させる根拠がおざなり。
EDを見た順番
1.縁(ゆかり)
慕っている兄を振られた痛みから少しでも救ってあげたいと意気込む献身的な義妹。血が繋がっていないことは本人は知らず、終盤に発覚して復縁したいのりと対立する際に投下されるネタになる。縁は兄が幸せになることが一番と真顔で言える一途な想いがあるが、妹であるということで行き過ぎないよう自制をしているいい子。兄は兄で妹とは言え血はつながっていないのだからと一定の距離を置いている微妙な関係。
自制していた互いの想いがいのりとの別れによって崩れていき、付き合いが長いぶん想いは強く、あれよあれよと燃え上がる。
子供のころの鍵の絆だとか盲目的な愛からの暴走だとか、少し幼稚すぎるきらいはあるけど、一途な姿がこれでもかと描かれているので、いじらしい姿勢はとても印象に残るが、いのりとの馬鹿げた復縁からの修羅場のせいで白けてしまう。
キチンと清算した復縁からの修羅場であれば、お互いに付き合いが長いだけに言葉の重みも大きくなり、一度失ったことで明確になったいのりへの想いと、想いを寄せてくれる義妹を裏切りたくない苦悩も理解できるものになるし、全員の主張や葛藤の理由がはっきりして見せ場らしい見せ場になっていたと思う。単細胞な主人公といのりが殺したナリオ。他のルートでネタバレさせるわけにはいかないからだろうけど、あまりにもひどかった。
2.雅(みやび)
無慈悲な現実に打ちのめされ、世の中は全て打算や偽りの上に成り立っていると達観しちゃってる人。人当たりがキツくて周りに敵も多い。良家の娘で生まれながらにして家の為に将来が決められていることがその原因だが、打算なんてなくても、損しかしないとわかっていても、行動する奴はいるんだという主人公の姿に魅せられて次第に心を開いていき、周囲とのわだかまりもなくなっていく定番の話。
その後はゲーセンの占いゲーム程度のものでも好相性の判定が出るとニヤニヤするぐらいにデレデレになり、その姿を見ることでミジンコ主人公も立ち直っていくわけだが、やはり縁ルートと同様にいのりとの馬鹿げた復縁が水を差す。
家と揉めて助けてほしいと主人公に涙ながらに懇願する流れから、予定調和のごとく復縁したいのりとのほほんとデートする主人公と鉢合わせという失笑モノのシナリオ。
家の問題で人格形成がされてしまうぐらいに、雅を語るうえで家という存在は欠かせない要素なのに、エピローグでも家との関係がどうなったのかを描かないまま強引に〆るから、背景が薄すぎてツンデレキャラの萌えイベント集ルートの印象は拭えない。
3.かりん
いのりを忘れようと思って喫茶店に逃げて、ここが俺の新しい居場所だと決めつけて、少しでも自分の思った通りに行かなくなると不機嫌になって。カフェ編は主人公の思考が絆だとかに突如傾倒しだして違和感があり気持ち悪かった。終盤に思い出す記憶喪失ネタの使い方も強引であっけらかん。4.めがね
何を言っているのかわからないメガネの電波。勘ぐられないように上辺を装いながら裏で主人公に復讐を企てているのではと期待した。けど単なる電波だった。かりんルートと同様に記憶喪失ネタが都合よく利用されていて、ただでさえ主人公との隔たりがあるのに唐突に色々なことを思い出して苦悩されても知らんがな。
5.いのり
縁と雅のルートで下手に手を出すから印象が悪いし、本人のルートでいろいろと真実が語られてもあの程度で復縁できる話なんだろうと思うとじれったい。身勝手な理由で主人公を振って苦悩させている上に、本人にとってもバレることは望んでいないはずなのに、漫画のセリフを引用したりナントカ人形を見せたり、隙を見せすぎで何がしたいのかわからない。
「元々好きでない」という建前も無視して中途半端に主人公を受け入れる身勝手な芯の無さも露呈する。それなら余計なことをせず主人公を信頼して素直に告白すればよかっただけではないのか。思い出せば主人公が傷つくかもしれないにしても別れを告げれば同じように傷つくわけで、人形やセリフなんかで思い出させようともしているわけで……。救ってほしいというサインなのかもしれないけど他ルートでの印象が悪すぎてそう思えない。コミュ障の暴走。
まとめ
強引な三角関係と下手な記憶喪失ネタ、形骸化した選択肢などで主人公と距離ができ違和感がすさまじかった。『2nd』が人気だから修羅場を入れなければならないのだろうけど、白々しい修羅場はほんとに白々しいだけだからないほうがいい。理由を描かないのになぜか復縁して修羅場につなげる縁と雅のルートは違和感まみれで感情移入なんぞできるわけないし、カフェ編もプレイヤーが知らない記憶喪失に依存しすぎな展開だから蚊帳の外にいるかのよう。
プロローグで感じた期待感は、読めば読むほどガラガラと音をたてて崩れていった。
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